川柳入門講座(その二)


川柳の形態《表現》−形と言葉づかいとリズム-

 今回は、川柳の形態についてお話をしますが、簡単に言うと、川柳の表現の概略、つまりあらましであります。もっとくだいて言いますと、川柳を形成している、形と、言葉づかいと、リズムの三つを指して言うのです。つまり、この三つが川柳の形を成していると言えます。



 まず、形から言ってみますと、五、七、五の十七音字、これが川柳の形です。普通、十七字詩と言っていますから、どなたも、すでにご承知のことと思います。

言葉づかい

(1)話し言葉で表現する。
 川柳は話し言葉で表現するのです。普通口語体とも言っていますが、日常語と言っている、話し言葉で良いのです。
 なぜ話し言葉が良いかと言いますと、川柳は生活の詩であることが、その理由の一番にあげられます。日常私たちは、文語体でお話なんかしていません。
 それに、言葉というものの存在の根本は、白分の意思を、人に伝えるためにあるものですから、どんな人にでも分かってもらえるものでなければなりません。

(2)わかり易い言葉、もっとも適した言葉
 次に、わかり易い言葉であると同時に、言おうとする自分の意思に、もっとも適した言葉であることが必要です。
 それには、言うまでもなく、すぐに納得してもらえるような、簡単さ、明瞭さが要求されます。つまり、一般的でない言葉などや、まわりくどい言葉などでないことが大切なのです。
 人によると、物識り顔に、むずかしい漢語を使ったり、まだ使いこなされていない横文字を使ったりして、得々としている人を見かけますが、何もそういうところで、学のあるところを見せようとしなくてもよく、それよりも、人間として、親しまれる言葉を使いたいものです。
 
リズム(韻律)

 次に、リズムに移ります。リズムは、川柳の表現の上においてとても大切であることを、お話ししなければなりません。

(1)十七音字のリズムは絶対欠かせないもの
 なぜリズムがそんなに大切かと言いますと、川柳が備え持っている十七音字のリズムは、川柳作品が長く生きながらえるために、絶対に欠かせないものであるからです。 川柳を作る人は、いつもこのことを、きちんと胸においておかなければいけないと、私は強く思っています。
十七音字というのは、五音と、七音と、五音との組み合わせで成り立っているもので、通常、よく言われている、五、七、五の十七字ということです。
 このことは、川柳を作っている人は、すでによく知っていられることですが、まだまだ、字余りや、字足らずの句を平気で作ったり、中には、目立ちたいために、殊更そういう方へ走ったりしている人もあるようです。そういうのは、全く無駄なことですから、注意しておきます。

(2)五、七、五のリズムは日本の短詩型文芸の命
 ところで、この五、七、五のリズムというのは、前にも、ちょっとふれましたが、遠く和歌から発して以来、ずっと日本の短詩型文芸とは、切っても切り離せないものですから、韻律の大切さについて、ここでもっと詳しくお話ししておきます。

(3)リズムをつけて語り伝えられたものは何千年も残る
 私たちは、よく韻文と言っていますが、この韻、つまりリズムをつけるということが、どうして大切なのかと言いますと、大分昔のことになりますが、約三千年前の、古代ギリシャの叙事詩、イーリアスなどは、大昔の英雄の物語を詩に詠んで語りつがれたものですが、このような長い物語も、詩の韻律がついていたからこそ、語りつがれ易くて歴史に長く残ったと言えるのです。
 ついでに、言ってみますと、中央アジアの草原の国でも、古くから語り伝えられている叙事詩があるそうですし、日本にもアイヌのユーカラがあります。
 これらはみな、韻律をつけて語り伝えられたからこそ、何千年ののちまでも、残ったのです。
 そのほか、万葉集や、平家物語、あるいは、お祭りの神楽とか、謡曲とか、琵琶歌、経文のたぐいも、韻文だからこそ、いまだに残っているのです。

(4)リズムがついていると、誰の頭にも入り易く、覚えられ易く、口ずさまれ易く、人を引きつける
 百人一首や、いろはがるたなど、身近にあって、私たちが、それを思い出して、いつでも口ずさむことが出来るのは、みな、韻律(リズム)がついているからです。
 このように、韻律がついているものは、誰の頭にも入りやすく、覚えやすく、また、ロずさみやすいから、何百年、何千年ののちまでも、気持ちよく、楽しく、美しいままで残ることが出来るのです。
 また、昔から、お経なども、人に説教するのに、どこの国でも、また、宗教は何教でも、えも言われぬ韻律をつけていて、そのために、広く広く布教、つまり、宗教を広めることが出来たのだと思います。
 このほか、お祭りの太鼓や、チンドン屋の拍子、相撲の呼び出しなども、子供の頃から聞き覚えて、いつになっても口ずさむことが出来るのは、みな韻律があるからにほかならないのです。
 アフリカやパプアニューギニアなどの、奥地の人々の、足拍子や、太鼓のひびきなどは、その原点と言えるものかもしれません。
 日本のこどもの唱歌に、桃太郎や、兎と亀、一寸法師、などなど、沢山ありますが、これらもみな、お話にやさしいリズムをつけて、覚えやすく、唄いやすくして、楽しいうちに、いろいろなことを、子供に教えています。このことは、誠に素晴らしいことで、小さい時から、子供たちに、良いお話を、面白く、楽しく、愛らしいリズムに乗せて、聞かせ、覚えさせて、それとなく、こどもを教育しているのだと思います。
 これらもみな、リズムが、韻律があるから、私たちでも、子供の頃から頭にしみついて覚えているのです。
 話が余談になったようですが、川柳にとって韻律(リズム)が大切なわけも、要するに、基因するところは一つである、ということですから、リズムの大切さを、しっかり心におさめておいて下さい。

(5)日本語だから出来る川柳と、十七音字のリズムとの関係
川柳の韻律(リズム)が、五、七、五となっていることは、ご承知のとおりですが、の五音、七音、五音からなる川柳のリズムは、日本語にとっても実にぴったりであるし、また、日本語で詠まれる短詩型文芸にとっても、誠に調子よく、美しく、気持ちのよいものであること、それが、日本独特の川柳を生んだとも考えられるであろうと思います。
このように、日本語だから出来る川柳と、十七音字のリズムとの深い関係を、私たちは、いつも考えていなければいけないと思うのです。

(6)川柳の楽しみを、のちのちの人にも残すようにしたい
リズムを大切にし、川柳の意とするところを大切にして、私たちは、川柳の楽しみを、ただ自分だけのものにせず、自分の思ったこと、気づいたこと、考えたことの、その面白さや、良さを、のちのちの人にも、残すようにしたいものです。
 リズムの大切さが、そこにあることを、忘れぬようにし、一人でも多くの人に伝え、また、一人でも多くの人によろこんでもらって、共に川柳の醍醐味を、分かち合うようにしたいものです。
 また、そうすることは、ひいては、何十年何百年か先まで、今日の白分たちの生活や、思いや、考えを伝え残すことにもなり、子孫の人々とも、よろこびや感動を分かち合えることにもなるのです。
 その意義は尊く、価値のあることを、よく認識して、リズムの大切さをゆるがせにせぬよう心がけ、一句でも多く詠み、一句でも多く残して行くようにしたいものです。


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このページは、森脇幽香里監修のもと、森脇幽香里著「川柳入門書」より抜粋されています。